中国茶芸について

 
  数年前からTVの趣味の講座などで紹介され、近年日本でブームになっている中国茶。 中国茶専門店や中国茶の飲める飲食店なども最近目にします。 私が興味を持つきっかけになったのは、インターネット通信販売のお茶の専門店の案内からでした。 世界中のお茶が紹介される中で、中国茶の占める割合が多いのにも驚きました。 その後、書物などで世界中にあるお茶の多くが中国から伝わったものだと知りました。

  日本でよく飲まれている抹茶や緑茶、西洋で好んで飲まれている紅茶も同じ椿科の植物の葉で、 もともとは中国から世界に広まった中国茶だったのです。 緑茶や紅茶も“中国茶”と聞くと、不思議な感覚さえしてきます。 中国茶は自然と世界に溶け込んで、その国の文化となっているようです。

  中国茶を飲んでいるうちに中国茶教室の話を聞き、興味深かった私は一年間のプログラムの講座に通い始めました。 講習や体験を通して中国茶の種類や茶器、作法を習い、中国茶芸の奥の深さに感動しました。 美味しいお茶の入れ方から始まり、お茶の産地中国や台湾の風土、歴史、文化にも触れることができ、 一つ一つが新鮮な知識となりました。

  中国茶の第一の基本は茶葉の種類です。 茶葉の種類には発酵の度合いで下記のように大きく6つの色のお茶に分類されています。 講習で学んだ基礎を少し紹介します。

緑茶 発酵していない未発酵または不発酵のお茶。 日本の緑茶は茶葉を蒸してあり、中国の緑茶は蒸さずに「釜炒り」という製法で作られ、 味わいが多少違う。 代表的な中国緑茶は龍井(ロンジン)、黄山毛峰(コウザンモウホウ)など。 飲み易くさっぱりした味わいのものが多い。色はやや茶色がかかった薄緑色。
白茶 弱発酵・微発酵のお茶。生産量が少なく貴重なものや高価なものが多い。 代表的なものは白毫銀針、白牡丹など。色が薄茶色で上品な味わい。
黄茶 微発酵のお茶、白茶に近く後発酵の工程がある。君山銀針などが有名で白茶のような味わい。種類も少ない。 色は黄色みのかかった茶色のものが多い。
青茶 半発酵のお茶、半発酵とは10~20%の軽発酵のお茶から70%の重発酵のものまであり種類が多い。 代表的なものは凍頂烏龍(トウチョウウーロン)、鉄観音、東方美人など。 発酵が弱いものは緑茶に近くさっぱりした味。発酵が進むと全般的に色が茶褐色になり味わいが濃くなる。
黒茶 後発酵のお茶、麹菌など微生物を作用させて製造されている。茶 葉はその名の通り黒っぽく、薬のような独特の風味がある。プーアール茶、千両茶が有名。
紅茶 全発酵、100%発酵したお茶。キーマン紅茶や正山小種(ラプサンスーチョン)などが有名。 中国紅茶はタンニンが少なく甘みがあるものが多い。

この他に、緑茶に花の香りを付けたジャスミンティーや菊花をそのままお茶にした菊花茶 などが有名な「花茶」があります。中国茶の種類は数千と数え切れないほどあり、同じ椿科 の葉から作られたお茶とは思えないほどの多種の味と香りが楽しめます。

  お茶の歴史は紀元前2700年ぐらい前からとされ、中国西南部の雲南省・貴州省・四川省周辺の高原に自生していた椿科の お茶の木が原産木だといわれています。 当時、日に干した茶葉を臼などで挽き、固形に固め、一杯分を砕いて湯で溶き、薬として飲まれていたそうです。 中国が唐の時代(7~10世紀)、文化も栄えたこの時代に庶民にもお茶が広まり固形状のお茶「団茶」として飲まれ、 遣唐使により日本(奈良時代)に伝えられました。

  紅茶は、中国の清の時代に、イギリスが当時植民地だったインドでお茶の木を栽培させて、自国に持ち帰りブレンドした紅茶を 世界に再輸出したことで、世界中に広まることになったのです。 世界中に広まった中国発のお茶は各国で独自の文化を創り、茶器や芸術まで発展させていきました。 お茶が美味しく飲めるように茶葉や茶器が改良されながら広まっていく、 お茶は世界の交流の源であり様々に形を変えながらその国の文化として根ざしていく 奥深さがあると感じました。 日本に伝わったお茶の習慣は日本茶や抹茶、更には茶道として発展し、 茶道の作法などは逆に現代の中国に伝えられました。 イギリスでブレンドされて西洋に広まった紅茶は中国紅茶よりも発酵の過程が長く、 タンニンが多く渋みがあるため、砂糖やレモンを入れて飲まれるようになり、 イギリスで進化した紅茶が世界中で飲まれる紅茶となり広まりました。

  また、日本ではウーロン茶はペットボトルに入った茶色く冷たいお茶というイメージが強いのですが、 烏龍茶は青茶の分類で、中国では熱い状態で陶磁器に入れて飲むのが主流です。 日本ではまた、青茶の中でも発酵が中程度の「鉄観音」(茶葉が茶色で濃い味わいが特徴)も 多く飲まれています。 数年前から日本のペットボトル茶のスタイルが中国に逆輸入されて、 中国でも茶色で冷たい烏龍茶が定着しつつあるようです。 また日本では、中国青茶の「凍頂烏龍茶」が花粉症の症状を和らげるとして最近ブームとなり、 ホット烏龍茶もよく飲まれるようになりました。 中国と日本のお茶の文化の交流は現代でも続いているようです。

  中国茶器には、茶壺(日本でいう急須)や茶杯(日本でいう湯飲み)とそれらがすっぽり入る茶船(チャセン)、 茶湯をためる茶海(チャカイ)があります。 また、香りを楽しむための聞香杯(ウンシャンペイ)などがあり、 中国茶を美味しくいただくための工夫がされています。 お茶の作法には伝統的な功夫式と宜興式とがあります。

  中国茶は視覚・嗅覚を使い、お茶を入れる作法、手順で脳を刺激し、味わい味覚を堪能するなど、 人間の感性を豊かにしてくれる魅力があります。 また、お茶はその茶葉により様々な健康効果もあり魅力です。

体重増加が気になる時は ダイエット効果で有名なウーロン茶やプーアール茶は 身体の新陳代謝を良くして、体内に脂肪を付きにくくする効果があります。
リラックスしたい時に 香りが楽しめる茉莉花茶やキンモクセイの香りの桂花茶、 ライチ紅茶など。花茶は季節や香りも楽しめ、アロマテラピー効果もあります。
美肌には ビタミンCを多く含む白牡丹、ポリフェノールが多く便秘解消などに よい東方美人(英名オリエンタルビューティー)などもあります。
眠気がきたら カフェインが多く覚醒作用のある緑茶、黄山毛峰や西湖龍井など。 カフェインは利尿作用と腎機能活性、新陳代謝を良くする効果があります。 
おもてなしに バラのつぼみが開くようなハマナス茶、菊茶など花茶や茶葉が開く様子が見られる紅牡丹、 珠梅雪蓮、宝扇花などのお茶をガラスの茶器で楽しめます。

  また、楊(ヤン)先生のお話や書物からお茶の葉の有効利用を教わりました。 飲み残しのお茶は拭き掃除に使えたり、飲み終えた茶葉を乾かして袋に入れると消臭剤になったり、 乾かした茶葉を燃やすと殺虫効果があり、肥料としての再利用法もあり、感心しました。 その中でも、教室で最も人気の再利用法は茶浴のようです。

謝辞
  中国茶は「頭に効く」、「身体に効く」、「心に効く」素晴らしい飲み物です。 今回、中国茶芸を勉強する事ができて、中国茶の楽しみ方や魅力を一年間かけてじっくりと味わうことができました。
  まだお茶の魅力のほんの少しをかじっただけかも知れませんが、 私の中でお茶に対する意識が変わったのは確かです。 私の中で夢は広がり、この美味しいお茶の数々を多くの人に飲んでもらいたい、お茶の楽しみを広めたい、 そんな願いが湧き上がってきました。 多くの方々に飲んで美味しかった、という幸せな気持ちになっていただけるようなお茶の入れ方を、 再度勉強しながら続けていきたいと思います。
  中国茶には人の心を結び付ける調和の「和」の心と仲間とお茶を通して心が通い合う「輪」の心があると感じました。 最後になりましたが、この中国茶教室を開設された楊 品瑜(ヤン ピンユ)先生と 一年間講師をしてくださいました渡部秀子先生、 同じ教室で一年間学んだ同期生徒の方々に心より感謝申し上げます。
(岩澤 早保里 2004年)