茶イナよもやま話(その24)

 

  この一年間に渡り、小学校の総合学習においてお茶の指導やアドバイスをしてきたが、その集大成として、 この二月に発表会が行われた。 そもそもこの総合学習とは、現代の子供達が課題や指示されたことに対しては真面目に取り組める反面、 主体的な行動や自ら課題を見つけて積極的に取り込むことが苦手な傾向への打開策として、また「生きる力」の育成を目指し、 平成14年度から文部科学省により実施されたカリキュラムである。 この小学校の場合、今年度の研究主題を「自己を生かし共に生きる~生活科・総合の学習を通して~」ということで、 一年生から六年生までそれぞれの課題に基づいて一年間活動してきた。 例えば、低学年は季節感を味わう工作や遊びの体験、中学年は地域と密着した地域行事やエコライフ体験、 高齢者とのふれあい等、高学年においては年間を通じたお米やお茶の研究、戦争や税金、 将来の仕事について考える体験といった成長段階に準じた興味深い課題となっている。

  ちなみに六年生におけるお茶をテーマにした背景には次のような理由があるそうだ。 先ず、五年生の際さとうきびから糖分を取り出し、黒砂糖を作り、それを使ってお菓子作りをした所好評で、 食に関する学習は児童達にとって一番興味があることだと認識した。 次に、保健の授業で「病気の予防・生活の仕方と病気」を学習した際、 スポーツドリンクやジュース類は生活習慣病の原因の一つとなっていた事に対し、 茶、特に緑茶は糖分ゼロでカテキンは血液をさらさらにし、テアニンはリラックス効果があることを学び、 児童達から「お茶って凄い!」という声が多く出たからだそうである。

  ということでこの一年間の課題に対し、 七月のお茶の講義(歴史・種類・成分、美味しいお茶の淹れ方のレクチャなど)が出会いの始まりとなり、 九月の敬老の日に合わせた児童主催、 地元老人の方対象のふれあいサロン(お茶や茶殻料理がメニューの喫茶室)のお手伝いやアドバイス、 そして今回の発表会のアドバイス及びお手伝いと関わらせて頂いた。 実際には私が児童達に指導させて頂いたのは、この三回の行事に対してだけで、基本的には担当の先生による指導、 そして子供達が自主的にインターネットや書籍を利用して調べたり、 地元のお茶屋さんに顔を出したりして知識を深めたようである。 そして一年間に及ぶ研究発表の場となる発表会は「お茶ワールド」と名付けられ、 体育館一面を使って研究テーマ別にブース分けし、保護者や地元老人会の方々を招いて催された。

  この研究テーマは
    1、 茶歌舞伎(お茶当てゲーム)
    2、 美味しいお茶の淹れ方
    3、 お茶の歴史や種類ことわざなどをポスターやスライドで発表
    4、 お茶料理
    5、 茶道体験
の五つに分けられ、私はお茶料理を担当することになった。 しかし、この事前打ち合わせの際、メニューが決まっているのかどうか、進行状況が全く判らないまま学校に出向いた所、 茶殻を使ったごはん、和え物、ホットケーキ、クッキー、豆乳ゼリー、マシュマロミルクティなど、 ご飯からデザート、アレンジティーに至るまで児童達が自らレシピを考案し、試作していたのである。 そこで私も一緒にホットケーキに入れる茶殻の分量を変えてみたり、 茶葉の戻し方を変えてみたりと試行錯誤しながら一緒にベストな状態を考えてみた。 また、時間や場所の関係でケアしきれなかったレシピに関しては自宅に持ち帰り、加える配分や材料を変えて試作して、 より良いと思われるレシピを提案してみた。
  そして迎えた当日。 和え物は試作の段階でかなり美味しくできていたので安心していたが、 その他レシピを貰っていなかったクッキーの状態はどうか?  ごはんに後混ぜする茶殻の分量や状態は大丈夫か?  ごはんにちゃんとお茶の味が出ているか?  豆乳抹茶ゼリーがちゃんと固まるか?  など、不安材料が幾つか残っていたが、ほぼ満足する形で作り上げることができた。

  正直、学校設備の状況も判らず、オーブンの癖なども知る余地がなかったので、 できあがるまでかなりドキドキだった私に対し、児童達は意外とクール。 粉ゼラチンのふやかし方などもアドバイスしたにも関わらず、当日の朝までかなりアバウトだったり、 アップルティーの飾りに使うりんごを型抜きしてはその場で食べてしまったり、ミルクティーの配分も適当だったり… しっかりしているような、未だ子供っぽいような…でも結果的に招待されたお客様からの反応もなかなか良く、 ご父兄の間でも普段捨てている茶殻でこんなに美味しい料理が作れるなんて!と新鮮な驚きの声を頂き、 私としても嬉しくホッとした。 そしてその横で美味しいと誉められながらも、自分達が作った料理が売れるか売れないかでヤキモキし、 残ってしまったことにとても残念がる子供達。 一生懸命作ったゆえの感想であろう。
  でもたまたま来場したお客様の数が少なかった為に残ってしまっただけであり、 どれもお世辞抜きでとても美味しく出来ていたのである。 出会った頃は、家で急須を使ってお茶を飲む機会が減り、お茶に対する知識や感心も乏しかった児童達が、 学習を重ねた結果、茶殻に残った栄養素に注目し、茶殻にこだわったメニューを考え、 共に協力しここまで上手に料理を作り上げた事が何よりも素晴らしいと思った。

  当日は上手に作り上げられるか、ちゃんと接客できているかばかりに気を取られ、 最後の挨拶の際児童達の前で料理グループ一人一人を思いっ切り誉めてあげられなかったことに、 とても後悔している。 こういった時に気の利いた言葉をとっさに掛けてあげられない自分は、まだ人間的にも、 子育て中の身としても未熟だなと痛感する。 そこでせめてもと、前日の晩に作った「茶殻入り抹茶スノーボールクッキー」を差し入れして帰宅の途についた。
  小学生相手のお茶の講義は全くの初めてで、毎回流れがいま一つ把握できず、 余裕が無いまま終わりを迎えてしまった気がする。 でも一つ一つ思い返してみて、どの授業も魅力的で意味のある課題で良い思い出ばかりだ。 今後このような小中学生の総合学習や家庭科の授業に対し、積極的に働きかけ、 お茶の素晴らしさを広めて行きたいと思うのと同時に、 何より子供達と楽しんで授業を進めていけたら本望だと思う。

陸 千波 2006年2月
      
発表会風景

      
茶殻入り抹茶スノーボールクッキー