ソープワート

アロマリズム

 
    先日、久里浜へ行く用事ができ、久しぶりに旅行気分を味わいましたが、 行きの車中でふたつの対照的な出来事がありました。 最初に乗り換えたときのこと、車両は一両目でした。 乗った瞬間異臭を感じ、見回すとトイレのある車両と気づきました。 その臭いがトイレからのものかどうかは分かりませんでしたが、 思わず呼吸を止め全身の毛穴を塞ぎたくなるような気持ちで耐えられなくなり、 次の駅で降りることにしました。 あの空間にいた人たちは嗅覚の順応性がうまく働き、臭いに慣れてしまったのでしょうか、 それとも私の我慢が足りないのか、敏感すぎるのか、ともかく公共の乗り物としては残念なことでした。

  横浜で京急に乗り換えた頃には、あの臭いのことはすっかり忘れ、ビルの街から景色は変わり、 キラキラと太陽に照らされた海が見え隠れする車窓をワクワクしながら眺めていました。 どこからともなく石けんのような甘くさわやかでやさしい香りがしてきました。 隣の駅から乗り込んできた外国人の若い女性たちの香りなのでしょうか。 その香りは恋にあこがれ夢見ていた十代の頃を呼び起こし、私の心の奥底をくすぐりました。 こんな「香り」のいたずらだったらいつでも大歓迎ですね。

  さて、石けんの香りというとソープワート(和名サボンソウ)の花の香りがイメージとして浮びます。 ヨーロッパ原産のナデシコ科サボンソウ属の多年草でとても丈夫で、繁殖力があります。 根茎には石けん成分であるサポニンが含まれていて、 昔からウールやデリケートな繊維などを洗うのに使われていました。 シャンプーや洗顔料、にきびや湿疹の治療に使われることもあったそうです。 夏に葉をたくさん摘んで子供たちとシャボン液を作って遊ぶのも楽しいですよ。 桜草に似た薄桃色の花は甘くやさしい香りがしてポプリにしても香りが残ります。 十月になってもいくつか花が咲いていたので花瓶にさしてみました。

忍田篤子 2007年10月

ソープワート