茶的故事 

 福建茶

 其の二 安渓鉄観音茶

 
  福建省泉州安渓県は、中国銘茶中の銘茶である鉄観音茶を産する茶の都としてよく知られ、 「閩南茶都」とも呼ばれています。 閩は福建省の別名で、福建省の南部は閩南地方とも呼ばれ、 安渓は福建省の南に位置していることから由来したようです。 安渓は近年日本でも人気の烏龍茶「黄金桂」の発祥の里です。

  鉄観音茶と言えば、まず茶名の由来の論争が興味深いです。 諸説ありますが、主に二つが言われています。 一つは安渓堯陽(現在の西坪鎮松岩村)の茶農 魏蔭によるという説です。 魏蔭は毎朝必ず観音様に一杯の茶を奉るほど観音様への信仰が深かったそうですが、 ある日芝刈りに山を上ったところ、岩山の隙間から燦々ときらめく一株の茶樹を見つけ、 大事に持ち帰り栽培したのが今日の鉄観音茶とされています。 子孫は現在も茶農家を続けています。

  もう一つは、清乾隆初年(1736年)、 安渓堯陽(現在の西坪鎮南岩村)出身の学者 王士諒によるという説です。 王士諒は友人と会っているとき、 南山の麓の荒れた庭で石と岩の間に輝く一株の茶樹を偶然見つけました。 これを慎重に育て、作った茶を持って乾隆六年に乾隆帝に謁見しました。 この話は堯陽茶史にも書かれており、南山の観音岩の下で見つけたことで、 「南岩鐵觀音」という名を乾隆帝から頂いたそうです。 現在、茶樹を見つけたとされるところは特定され、 りっぱな亭榭(中国式の東屋)が立てられており、見学もできます。

  鉄観音は別名紅心観音または紅様観音です。 他には純種ではないとされる紅英観音、白心尾観音、白様観音、薄葉観音などの品種があります。 本来鉄観音は茶樹の品種名で、製茶法は烏龍茶と同じです。 しかし、鉄観音という高い名声からそのまま茶樹名が茶のブランドになったのです。

  伝統的な鉄観音茶は発酵度が高く、ほろ苦いなかに甘味があるのが特徴です。 近年は、中国人が緑茶を嗜好するためか、発酵度の低い台湾高山茶のような鉄観音茶も多く作られ、 高値で販売されるようになりました。 鉄観音茶では新芽ではなく成長した茶葉を摘んで製茶されています。 新芽を摘まないことから壮年茶(中年茶)とも呼ばれています。

  安渓県誌によると明の時代は茶栽培が繁栄していたそうですが、 茶聖 陸羽の著書には安渓の茶栽培は唐の時代から始まったと記述されています。 また、文化大革命時は、偶像崇拝がよくないとして、「観」と同じ発音の「冠」を使って 「鉄冠音茶」と書き換えられました。 中国旅行中にときどきこの名称が古いメニューや茶屋の壁にらくがきのように残され、 見ることができます。

  安渓を祖籍とする台湾人は200~300万人いるといわれるほど安渓と台湾の関係は深く、 台湾に移住した茶農の多くも安渓出身でした。 安渓からは多くの茶苗も台湾に渡っています。 安渓は閩南の黄金三角地帯といわれる厦門、漳州、泉州を繋ぐ位置にあり、 福建省の東南部にあります。 この一帯特に漳州、泉州からは多くの人が台湾に移住しています。 近年は子孫の多くが安渓に戻り、茶業の再建に力を注いでいます。 筆者の先祖もこの一帯を経由し台湾に移住しました。 安渓は古くから中国国内での消費より輸出需要が高く、 香港や東南アジアの華僑への供給がもっとも主力でした。

  かつて茶王賽という茶葉を競う品評会がありました。 唐の時代には「茗戦」、宋の時代には「鬥茶」とも呼ばれました。 競い方は時代によって多少違いますが、二人か三人一組で、二組ずつ競い合うのが特徴です。 この品評会で優勝したお茶は茶王と呼ばれました。 安渓鉄観音茶は数回一位になったことがあります。 そのため、安渓鉄観音茶は慣習的に茶王とも呼ばれています。

  近年はさまざまな業者がブランド化し、 国営の安溪鐵觀音集團(旧安溪茶廠)の特級鉄観音茶の「鳳山牌」などが北京釣魚台國賓館和國誼賓館の専用茶に選ばれています。 「鳳山牌」茶は1982年から連続金賞を受賞しているそうです。

  安渓の話から少し離れますが、最後に鬥茶に関してもう少し書いておきます。 鬥茶の様子を書いた名画が幾つか残されています。 元の趙孟頫 作の鬥茶図は有名で、元の時代の民間風俗としての鬥茶風景が書かれています。 日本でも、大阪市立美術館の銭舜挙 作の品茶図など、いくつかの鬥茶図が所蔵されています。 中国語では「品茶」は茶を楽しむ意味ですが、 作品を見ると各三人で二組に分かれた典型的な鬥茶の様子が描かれています。 また、台湾で茶芸協会を発足され、 現在も茶芸の第一人者でもある中華茶文化学会の理事長 范増平 氏のご先祖である、 中国の政治家であり文人でもあった宋の范仲淹が書いた「鬥茶歌」も有名です。

 楊品瑜 2007.05.07 (転載不可)


安渓産鉄観音茶




安渓産鉄観音茶




魏氏のご子孫より頂いた鉄観音の本