茶的故事 

 江西茶

 其の二 遂川狗牯脳茶

 
  江西省産「遂川狗牯脳茶」は緑茶の銘茶で、石山茶や玉山茶とも呼ばれることがあります。 主な産地は羅霄山脈南麓支脈の遂川県湯湖郷狗牯脳山です。

  江西省は長江(揚子江)の中流から下流にかけての南岸に位置し、 東は浙江省と福建省、南は廣東省、西は湖南省、北側は湖北省と安徽省と接しています。 その名は733年に唐の玄宗皇帝が江南西道を設立したことに由来しています。 六朝東晋の陶淵明、北宋の欧陽修、曾鞏、王安石、南宋朱熹、文天祥など多くの著名人が江西省出身です。 また、江西省の東北には中国を代表する陶磁器の官窯「景徳鎮」があることでも有名です。

  狗牯脳茶には、狗(犬)の頭に似たある山の山頂に数本の茶樹があったという伝説があります。 山頂は年中雲や霧に囲まれていましたが、茶農の梁為鎰がやっと清明節の日に灼熱の「湯湖温泉」を超え、 高い山崖で香リ高い茶葉を摘むことができました。 すると、上質な茶ができました。 その茶は病気を治し臓器まで強くしたので、皇帝に献上され、献上茶として名声の高い茶になったそうです。

  また、狗牯脳山にあった茶樹は、 実は清の嘉慶元年1796年に木排工(山から切り出した木をいかだに組んで川に流して運ぶ職人)梁氏が水害で流されて、 その後に南京より茶の種を持ち帰り栽培したものという説も出てきています。 未だに歴史的な話題は尽きないようです。

  狗牯脳茶には「狗牯脳山の四奇」という賞賛の言葉もあります。 「一は山奇、二は水奇、三は土奇、四は制茶技術奇特」、 つまり山が特殊で、水と土が極めて茶栽培に適し、製茶技術も良かったと褒め称えられたのです。 『遂川県志』の記載には 「この200年、この茶を飲めた人は極めて少ない」とあるほどの珍茶でもあります。

  その後、梁氏の第六代目の子孫梁斉桂が製茶秘方を守り、1964年遂川狗牯脳茶廠(茶工場)を再建し、 現在は第七代目が受け継いでいます。 茶園は海抜1000メートル以上のところにあり、環境が保護されています。 茶摘みは4月初めに始まり、高級なものは一芽一葉に摘まれます。 露が残る茶葉は摘まず、雨の日や晴天の昼間も茶摘みを行なわず、さらに工場でも色や形の悪い茶葉を排除し、 厳しく茶葉を選別しているそうです。 製品は貢品、珍品、特級、一級などの六等級に品質が分けられています。 茶葉は緑茶でありながら、高級茶によく見られるうぶ毛があるものが上質とされています。

  狗牯脳茶は過去も現在も多くの国内、国際的な食品博覧会で金賞を取った茶として、 重要な産品として保護されています。 かつては1915年に遂川県の茶商 李玉山が作った狗牯脳山茶の銀針、雀舌、珠茶各1000グラムが3缶に分けられ、 アメリカのロサンゼルスで開催されたパナマ太平洋万国博覧会に出品され、“頂上緑茶”と称され金賞を取っています。 その後1930年に李玉山の孫 李文龍が“玉山茶”に改名した経緯もあります。 近年でも1982年に江西省名茶、1985年に江西省優質名茶の再評価を受け、数多くの品評会に送られています。

  筆者が初めて狗牯脳茶を淹れたときには、茶湯が濁りました。 少し不安を覚えながら飲んでみたら、香り高く、やや渋みがありましたが、すぐに甘味が味わえました。 見た目とぜんぜん違う「不思議なお茶」という印象を受けました。

 楊品瑜 2008.01.30 (転載不可)


狗牯脳茶



狗牯脳茶の茶葉