茶イナよもやま話(その15)

 

  このGWに上海から帰国した主人が様々な新茶を抱えて来てくれた。 いつもながら頭が下がる思いである。緑茶を始め、烏龍茶等数々ある中で、 その味と色、形に魅了されたのが「安吉白片」そして「安吉白茶」である。 これらのお茶の産地、安吉県は主人の知り合いの故郷であり、 昨年辺りから安吉産のお茶の素晴らしさを紹介して頂いていた。 今回はこの二種のお茶の違いに注目してみたいと思う。

  先ずは「安吉白片」であるが、又の名を「銀坑白片」(銀坑は土地名)とも言う。 浙江省安吉県山河、章村、渓龍の霧深い高山地帯が産地である。 白片は谷雨節(4月20日)前後に開いた一芯一葉を使うが、 これも1kgの茶葉を製造するのに6万前後の茶葉が必要だとか。 この摘んで来た茶葉を篩いにかけて、大きさを均等に揃えた後、平鍋で炒りながら酸化を止め、 又篩いにかけて白片独特の方法である、「圧片」という方法で扁平にし、 乾燥させた「烘炒緑茶」である。 ちなみに、白片、白茶ともに「白」がつくので紛らわしいが、 その製造法によるお茶の分類としては、「白茶」ではなく、「緑茶」である。

  この白片は、確かに乾燥時は龍井茶程ではないものの、比較的扁平な茶葉で茶色に近い緑色だが、 何よりも白亳が多く、香りからして旨みを感じる香ばしい茶葉であった。 湯を注いでみると芽がぷっくりと太っていて、 その一芯一葉の様子はまるで花が咲いているようである。 水色は薄めだが、味も甘みと旨みが程よく、 烘炒緑茶らしいスモーキーな香りのする美味しいお茶であった。

  次に「安吉白茶」であるが、 このお茶は宋代の芸術通と言われた徽帝が記した「大観茶論」にて説明されている 「白茶自為一種、与常茶不同…」で始まる白茶のことで、約900年の歴史があるお茶だとか。 この茶葉の形が鳳の羽の様で色も「玉白」(玉のように白い)とか、 「玉霜」(きらきらとした霜)のようなので、「安吉玉鳳茶」とも言われる「烘炒緑茶」である。 この白茶の特徴は、その独特の生育の仕方にある。

  1999年に発行された「茶葉科学」によると、 「白茶」は春の発芽したばかりの柔らかい芽頭が薄緑色をしているが、 葉が開いた途端に乳白色になる「白化現象」を起こし、 この現象は一芯二葉前後の頃に一番顕著に現れ、徐々に緑色に戻るという。 この「白化現象」は温度の影響が大きく、発芽期の気温が15~22度だと白化現象を起こすが、 23度以上になると白化→再緑という現象を起こさなかったという。 また、正式に緑色に戻り始める気温は16度からだそうである。 この「白化現象」の間は葉緑素が減り、葉の中の旨み成分アミノ酸含有量が高くなるが、 緑化するとどんどん減少していく。 この白化現象中のアミノ酸量は最高で5%を超え、 一般的緑茶のアミノ酸含有量の約2倍もあるという。

  ちなみに苦渋み成分であるタンニン(カテキン)はアミノ酸と逆の動きをする。 だから、乾燥茶葉の状態で食してみても香ばしく旨みが強く、まるでおつまみのようである。 湯を注いだ後の茶殻も黄緑~緑色で発色がとても良く、一本一本が細くピンとした一芯一葉である。 この旨みの強い滋味は日本茶に近い味わいにも感じられる。 また、過去の数々の受賞歴から考えても、今後日本において龍井茶と同等の人気緑茶になるのでは、 と言っても過言では無い気がする。

  最後に、これらのお茶の産地「安吉県」であるが、中国一の竹の産地として有名な地域である。 この安吉産の竹墨は日本でも販売しているようだが、それ以外にも小ぶりながら、 日本の春筍の味わいに近く柔らかい「冬笋」は炒めても、 スープに入れても美味しく頂ける人気の品である。 それ以外にも、日本でも漢方薬局なら置いてあるかもしれない「竹荪」は 高血圧や癌予防にも効果がある(?)とか。 見た目は細長いスポンジのような不思議な物体ながら、 スープに入れて煮込むとシャリシャリとして美味しい珍味である。 上海から228km、杭州から63kmの安吉県。遠くない将来、 白茶の「白化現象」見学と筍づくしの旅を企画できたらとても楽しそうである。

陸 千波 2005年5月














  安吉白片















  安吉白茶















  竹荪