茶イナよもやま話(その17)

 

  7月といえば恒例「ozone 夏の大茶会」である。 今回は愛知万博でも披露されたプラチナの茶室前でのお手前拝見とお抹茶の試飲、 静岡の茶業者による日本茶の茶歌舞伎(闘茶)体験を始め、注目したいトピックスが幾つもあった。 特に中国茶の団体による中国茶の献茶礼、中でも普段なかなか目の当たりにできない「雲南三道茶」や 「湖南擂茶」のデモストレーションを見ることができたのが収穫だった。 そこで、今回はそういった民族喫茶について注目してみたいと思う。

  先ず、「雲南三道茶」についてだが、 これは雲南省の白族(ぺー族)が客をもてなす際に用いられる一つの献茶方法である。 ちなみに中国は全部で56の民族で構成される多民族国家であるが、 その91%は漢民族が占め、残りの55民族を少数民族と呼ぶ。 その中で一番人口が多いのが壮族(チワン族)で約1500万人を占め、 その後、満族(満州族)、回族、苗族(ミヤオ族)、維吾尓族(ウィグル族)と続く。 そんな中、白族は160万人程度の人口である。

 この「三道茶」は人生を表していると言われる。 先ず一杯目が「苦茶」で人生の大変さ、厳しさを、 二杯目は「甜茶」(甘茶)で「苦」の後には「楽」が来るという人生の定義を表し、 三杯目の「回味茶」(回想茶)で今までの人生における苦楽を振り返りながら懐かしむ…というものである。

  「三道茶」の淹れ方のデモストレーションを見ることができたので、紹介すると、
  ①茶壷を温める
  ②砂罐という小さなピッチャーのような土器を火にかけ、温める
  ③茶葉を砂罐の中に入れ、揺らしながら火の上で炙り温める
  ④茶葉の色が変わってきたら砂罐にポットから熱湯を注ぎ、火の上で暫く煮る
  ⑤その間に茶壷から茶杯に移した湯を建水に捨てる
  ⑥砂罐を火から下ろし、茶湯を茶壷に注ぐ
  ⑦茶壷の茶湯を高い位置からゆっくりと茶杯に注ぎ、それを客人に手渡す
という流れだった(ちなみにこのように砂罐を使って作る炙り茶を「烤茶」という)。 そして、一杯目の「苦茶」はこのまま、二杯目の「甜茶」は蜂蜜など甘いものを加え、 三杯目の「回味茶」では唐辛子のような辛いものや甘い蜂蜜にアラレや胡桃等を加えて混ぜるようである。 この時使用する茶葉は雲南省産の大葉種の茶葉ではあるが、特に銘柄は決まっていないようだ。 実はこの場では「三道茶」を試飲することができなかった。 このため、味のコメントができない事が大変残念でならない。

  ちなみに、この白族は「三道茶」以外に自分達の日常生活や来客用に「雷响茶」を、 婚礼の際には「両道茶」を用いる等、TPOに合わせて喫茶方法を使い分けているようである。 「雷响茶」は前述の「烤茶」の方法とほぼ同じで、 砂罐に熱湯を注ぐ際に発する音が「雷鳴」に似た大きな音なので、その音を聞いて思わず皆から笑みがこぼれ、 賑やかな雰囲気に包まれることから吉祥のシンボルとしてこの喫茶方法を大切にしているようである。

  調べた所によると、この白族が居住する雲南省の大理には「大理三塔」という立派な仏教建造物があり、 白族も仏教徒が多いとか。 「三道茶」のもてなし方法は人生の哲学的要素が含まれており、仏教の影響を多少なりとも受けている感じがする。

  その他、少数民族の喫茶方法を幾つか紹介してみよう。 最も原始的な飲み方として、摘んできたばかりの生葉を囲炉裏の火で炙り、 鉄瓶の中に入れてぐらぐらと煮る、佤族(ワ族)や拉祜族(ラフ族)の「焼茶」。 余談ながら、先日小学校での講義の際、この「焼茶」を試飲させた所、「青臭い」とも「苦い」とも言われず、 意外にも小学生の評判が良い原始的な味のお茶である。 他にも、湖北省や湖南省産の磚茶を崩し、 煮出した茶湯に牛乳と塩を加えて細長い円筒の中で攪拌するモンゴル族の「奶茶」。 沱茶や磚茶を煮出したものにバターオイルや塩を加え、「奶茶」同様攪拌する納西族(ナシ族)の「酥油茶」。 デモストレーションでも見ることができた、擂鉢に生姜や生米やゴマや茶葉等をそれぞれ擂りこぎですり、 合わせて塩と湯を加えて飲む湖南省発祥の「擂茶」。 さらには、泰族(タイ族)の「竹筒茶」等など上げだしたらきりが無い。

  最後に、飲用だけでなく、食用としている民族の話も少しさせて頂くと、 摘んできた茶葉を入れ物に入れ、圧力をかけて数ヶ月置いたものを取り出し、 塩や胡椒を加えて食べる徳昴族(トーアン族)や景頗族(チンポー族)の「腌茶」。 新鮮な柔らかい葉に酸っぱい筍や生姜、大蒜、塩胡椒を加えて、混ぜて食べる基諾族(ジノー族)の「涼拌茶」等、 茶を食す習慣を残す民族達もいるようである。

  いずれにしても、茶は、家族や客人に穏やかな時間を提供してくれるだけでなく、 時には人生の厳しさまで教えてくれ、そして野菜が少ない山岳部 においては貴重なビタミン源となる、如何様にでも七変化する貴重な存在の物なのである。

陸 千波 2005年7月
      

本文とは関係ないが、台湾嘉義県産の擂茶