茶イナよもやま話(その4)

 

  「6月」と聞いて思い出す言葉といえば、「梅雨」、「紫陽花」そして「ジューンブライド」だろうか...?
ということで今月のテーマは「お茶と結婚」にしようと思う。

  ただ、お茶というと、我が国においては慶事というよりは、仏事。 お葬式の引き出物に使われるイメージが強いのではないだろうか。 しかし蓋を開けてみると...  意外や意外!結婚行事にお茶がこんなにも携わっているとは。

  具体的には、九州全域においては、結納の印に茶を嫁方に送る習慣があり、この結納セットは町中のお茶屋さんにおいてあるという。 これは、豪華な水引細工の中央に茶壺や茶筒が置かれている物で、結納目録には「御知茶(お茶)」と書いてあるそうである。 また、結納を交わす事を、「茶をいれる」とか「オチャ」とも言うとか...

  しかし、何故結納に「お茶」なのだろうか? これにはお茶の木が根を深く深く伸ばし、一旦植えると植え替えが難しい=「嫁いだ以上はしっかり根付くように」という親の願いがこもっているようだ。 又、結納セットの中身だが、実は値段が安い番茶などを使うとの事。 これも、安いお茶は出が悪い=「簡単には(嫁ぎ先から)出ない」という解釈から来ているらしい。 何と微笑ましい語呂合わせなんだろう!

  そして、これと同じような習慣は新潟や福島辺りにも存在するらしいが、 日本一のお茶処静岡においては婚姻にお茶はタブーとされていて、結納の席ではお茶ではなく「さくら湯」を用いるそう。 しかし近年までの静岡東部~神奈川西部、及び山梨南部にかけての地域では結婚式に花嫁が「茶袋」と称して茶を入れた袋を持参し、 式の後に近所に挨拶周りをしてお茶を配る習慣があったそうである。 他にも神奈川県平塚市で式の後、新婦が「花女郎茶」を配る等、お茶は人生の儀礼にこんなにも深く関わっていたのである。

  次に、隣国中国についてだが、当然婚姻とお茶は深く関わって来た。 ただ、中国は国が広く人種も様々なのでその習慣にも地域差があるようだが、少数民族に特色ある婚姻習俗が多いようだ。 いずれにしてもお茶の「植え替えが難しい」特性を婚礼に用いている点では日本と同じである。

  ちなみに私が挙式した上海近郊の浙江・江蘇省辺りでも、以前は婚礼に茶が用いられていたようである。 その一例として、「新婚三道茶」がある。 これは婚礼の「拝堂成親」(天地の神に礼拝して夫婦になる)の際に、最初に銀杏のスープを天と地の神様に、 次に蓮の実と棗のスープを両親に捧げ、感謝の意を込めながらお辞儀をし、最後に夫婦が向かい合ってお茶を酌交わすものだとか。

  ただ、残念ながら私が挙式した時にはもう既にお茶を酌交わすような 習慣は無く、ただ、両親や参列者にお辞儀をし、自分達も向かい 合ってお辞儀をするだけにとどまった。

  今現在、上海を始めとした都会の挙式は、日本の披露宴と大差 ないレストランウェディングが主流で、以前の様に茶を持って夫婦 の永遠の愛を誓い合う様な事は殆ど無い。お茶を愛する私としては 何時までもお茶が人生儀礼の大切な要であって欲しい所だが。 ・・・いつか少数民族の茶を用いた婚礼風景を見てみたいものである。

陸 千波 2004年6月