茶イナよもやま話(その7)

 

  旧暦の8月15日は《中秋節》。 今年は9月28日である。 《中秋節》は別名《秋節》と言われるお祭りで、旧暦を扱う国では、 旧暦のお正月である《春節》の次に賑やかな節句と言われている。 日本人の感覚で中秋といえば 「満月」、「お月見団子」、「すすき」といった 言葉が浮かび、家でのんびりお団子を食べながら月を眺めるか、はたまた、 わざわざ月見団子をお供えしない家庭も多い、 どちらかというと地味なイベントではないだろうか。

  思い起こせば北京留学中のことである。 中秋節当日、中国人と韓国人の学生達はまるでお祭り気分。 外に出ながら大騒ぎ。 それに相反して 「今日は何の日だっけ?」と言わんばかりに冷め切った日本人。 それもそのはずである。 日本は新暦を、中国や韓国は旧暦を重んじる国なのだから無理もない。

  中国では、新暦の8月下旬頃から日本のお中元並みに「月餅」を送りあう習慣がある。 どの家庭でも真夏はスイカ、中秋前後は月餅の箱がごろごろと積み重ねてあるのが 印象的だ。 この月餅は味も形も様々で、小豆餡以外に、棗や蓮の実、冬瓜等を甘く煮詰めて 餡状にしたものや、胡桃や瓜子等のナッツ類がぎっしり入った「五仁(ウーレン)」、 チャーシュー等の肉類が入った甘しょっぱい味の物もある。 その他、皮がパイ状の「蘇州式」の月餅等もあるが、 やはり一番高級とされているのは小豆や蓮の実の餡に咸蛋(シェンダン)と呼ばれる 塩漬けのアヒルの卵が入った月餅だろう。 玉子が満月のようで綺麗だし、甘辛味がマッチして私は美味しいと思っている。 楊先生の話では、「子供の時の台湾ではパイナップル餡をよく食べたが、 これが今日のパイナップルケーキの原点かも!?」だそうです。

  また、ここ数年前から、上海のハーゲンダッツでもアイス月餅を売り出しているが、 苺やバニラアイスの周りをチョココーティングした美味しいアイスクリームという 感じで、話題性はあるが価格がべらぼうに高く(1個千円程度)、 いわゆる白領 (バイリン)と呼ばれるブルジョワ対象の高級品といえるだろう。 他にもスターバックスのコーヒー味の月餅も変り種である。 が、白餡にコーヒーとオレンジのフレーバーを加えたこの月餅。 外観は高級感に満ちているが月餅というよりは洋菓子。 発酵度の高い中国紅茶か、濃く淹れた鉄観音等には合うかも。 美味しいは、美味しいが…。 コーヒー党には好きな味かもしれないが、 私にはやはりスタンダードな月餅の方が口に合うようである。

  《中秋節》といえば、月見なので月に関する話も少し。 月といえば、日本においては昔から月に兎が住んでいて餅をついているという話を 良く聞いたものである。 しかし、これが中国に行くと兎が女神西王母の不老不死の薬草をついているという 「玉兎搗薬」という話に変わる。 また、それ以外で有名なものに「嫦娥奔月」という話がある。 この嫦娥(ジョウガ)という女性が、夫が西王母から貰った不老不死の薬を盗み飲み、 仙人となって月宮に行ったという話である。 余談ながらこの嫦娥さんは月のシンボル的な存在のようで、2006年末、 もしくは07年初に、中国第1機目の打ち上げとなる月面探査衛星も「嫦娥1号」と いう名前だそうである。 ただし、嫦娥奔月の話にはここで紹介したもの以外にも諸説がある。

  しかし、何はともあれ、中秋は一年で一番月が美しい日であり、 満月は古くから家族円満の象徴なのである。 月が丸いように家族の、恋人達の仲が円満であるように祈るとてもロマンチックで 優雅な一日なのである。

  そんな一日を彩るスパイスに、月に関する大人の絵本は如何だろうか。 日本でもこの10月に金城武主演で放映予定の「ターンレフト ターンライト (向左走 向右走)」という映画の原作者、台湾の絵本作家 「幾米(ジミー)」氏の 三部作の一つと言われている 「君といたとき、いないとき(月亮忘記了)」 という絵本である(宝迫典子訳、小学館)。 先ず、彼の描く絵の繊細さ、美しさ。 そして、メッセージ性の強い意味深長な内容に考えさせられること多々アリ。 円満の象徴、柚子茶を片手にいかが?

陸 千波 2004年9月













高級感漂うスタバの月餅