12月の研究会は、「中華街ツアー」だった。
今回は、昨年12月にオープンした「大世界(DASKA)」にて京劇のミニ舞台と
揚琴の演奏、そしてスクリーンによる上海の今昔の街並み、風景を堪能した。
入館料500円で、座席の入れ替えも無く、
これだけ体験できるのはかなりお得だと思う。
京劇といえば、北京留学時代に北京の人民劇場などで孫悟空の舞台を見たり、
老舎茶館で蓋碗に入った中国茶をすすりながら京劇の立ち回りを見たりした事があるが、
正直、興味はあるが、内容を理解するのは難しい分野だと思う。
そこで京劇について幾つか調べてみた。
京劇とは中国の代表的な伝統劇の一つで、
今から約200年前に地方劇の「徽劇(安徽省)」と「漢劇(湖北省)」を
基礎として「昆曲(江蘇省)」などの優れた所を吸収、発展させた芝居の事をいう。
元々は日本の歌舞伎のように男性のみが演じる事ができたが、
1894年上海にて初めて「美仙茶園」という女性が演じる劇場が出来たとか。
京劇には大きく分けて歌や台詞中心の「文劇」、
歌や台詞が少なめで立ち回りが見せ場の「武劇」の2つに分かれるそうである。
今回見た舞台は、「三岔口(サンチャーコウ:三叉路の事)」という北宋時代の
物語で、せりふが少なく役者の動きを見ているだけで大体の内容が判る「武劇」
なので、海外でよく上演されるそうである。
内容を簡単に説明すると、“名将楊延昭の部下である、将軍焦賛が人を殺し、
沙門島へ流刑になるが、道中彼が悪人達に狙われる事を恐れ、
楊延昭は部下の任堂恵に命じて焦賛の後をつけさせた。
その夜、焦賛と役人達は三岔口の宿に泊まった所、
宿の主人の劉利華も焦賛だと気が付き、助けようとした。
しかし、後から宿に泊まりに来た任堂恵を刺客と勘違いして、
夜中真っ暗闇の中、任堂恵と劉利華の戦いが始まる。
最後に劉利華の妻が持ってきた蝋燭の明かりで顔を合わせ誤解が解ける”という
単純なストーリーだが、その任堂恵の「武生」らしい立ち回りと、
劉利華の「丑」らしいユーモラスな動きと顔の表情が楽しく、
外国人である我々でも判り易かった。
ちなみに「武生」とは立ち回りをする勇士の事、「丑」とは道化役の男性の事で、
京劇の役柄を大きく分けると、男役総称の「生(ション)」、女性役の「旦(ダン)」、
隈取りをしている男役の「浄(ジン)」、
道化役で目と鼻の所だけ塗っている男役の「丑(チョウ)」となる。
スペースの関係で詳しい説明は省略させて頂くが、
この「浄」の隈取り(臉譜:リェンプ)の違いを見るだけでもとても楽しい。
顔の色も商売の神様「関羽」を表すことで有名な赤は「忠義で血気盛ん」、
白は「陰険な悪役」、黒は「愚直で荒っぽい」、紫は「正義、清浄」、
金銀は「神や仏を表す」等、使っている色にもその人間性を表す作用があるのである。
他にも年寄りを表す為に髯をつけ、
(黒が一番若く、年配が灰色、年寄りが白という違いがある)身分が高い人を表す
衣装は上五色(黄・紅・白・黒・緑)、
それ以外の人は下五色(粉(ピンク)・藍・紫・湖(淡緑)・水色)を用い、
特に黄色は皇帝や国王レベルしか着る事が出来ないなど、
京劇には舞台装置が何も無い中で顔の色や髯、衣装等の誇張した表現によって
人々に感情や季節、話の内容を理解させるという表現方法の面白さがあると思う。
最後にやはりお茶関連の話だが、中国には京劇以外にも河北省の「評劇」、
江蘇省の「昆劇」、安徽省の「徽劇」や「話梅劇」、浙江省の「越劇」、
広東省の「粤劇」等など、数多くの地方劇が存在する。
その中の一つに「採茶劇」というものがあるが、
元々は茶農家が茶摘みをする時に皆で詠っていた茶摘歌に踊りが加わって
茶摘み劇になったのが始まりと言われる。
本来、「二旦一丑」(二人の女性に一人の道化役の男性)で演じられた
素朴な喜劇である。
徐々に人数も増え、役柄も増えたが、基本的には二胡の伴奏がつく程度で、
ストーリーより歌中心で出演者の表現、表情で観衆を魅了する素朴な生活観
漂う地方劇のようである
。色々な地域性があり、「江西採茶劇」、「閩南採茶劇(福建省)」、
「粤北採茶劇(広東省)」、「広西採茶劇」等様々である。
いずれにしても重労働である地味な茶摘みの作業を明るく楽しくする為に
生まれた一つの娯楽だったのであろう。
陸 千波 2004年12月
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京劇「女性武将 楊家将」の衣装
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