茶的故事 

 台湾茶

 其の十五 大湖酸柑茶

 
  苗栗県大湖郷、頭屋郷一帯の名産品に酸柑茶と呼ばれる、柑橘の一種「酸柑」に茶葉を詰め、 乾燥させたものがあります。 客家(Hakka)人の家庭に伝わる漢方薬として咳止めや喉腫れなどのために飲まれているものです。 台湾では、市販品の酸柑茶は漢方薬店で売られています。

  苗栗県の茶葉栽培は18世紀中葉から始まったとされ、かつて樟脳栽培も盛んでした。 苗栗の地名は、清の時代の原住民「平埔族」の「道卡斯族」に属する「猫里」(猫裏)社の 部落名に由来します。 「猫里」は原住民の言葉で、平原の意味です。 『台湾府志』によれば、当初蕃社名(原住民の部落名)を猫裏と書き、村名を猫里と書いて区別していましたが、 後に二者を混用して併用するようになりました。 光緒12年(1885)清朝がこの地に置県の際、近音の佳字「苗栗」に改めました。

  本格的な開拓は明の乾隆時代からで、それ以降福建、広東から移住が増え、 多くの客家が住む地域となりました。 筆者が中学生時代に学校行事で訪れたとき、おやつに茶葉蛋を買って食べようとしたところ、 全く言葉が通じず、客家語が話せる友達に助けてもらいながら、指で数えて交渉した記憶があります。 もちろん、当時から茶葉蛋は人気の屋台料理でした。

  大湖は清の時代に開拓された地域とされていますが、四方を山に囲まれており、 まるで大きい湖のようであったことから、この名が付いたとされています。 苗栗の中でも最も多くの客家人が住んでいる地域で、 公的行事の多くは客家人の習慣に則って行っているそうです。 約300年前の中国からの移住と共に伝わった蚕の養殖も盛んですが、 近年は台湾では珍しいイチゴ栽培に成功し、イチゴ狩りが出来るところとしても有名です。

  酸柑は「虎頭柑」とも呼ばれ、日本の夏みかんに似た酸っぱいミカンです。 搾ってジュースにすることがありますが、食べるのには適しておらず、 お供え物としてよく使われていました。 最近は改良種で甘いものもできています。

  大湖一帯の酸柑茶の作り方は、中国廣東省梅県出身の客家人が多いこともあって、 広東省梅県からの伝授法とされています。 作り方は、
  1.酸柑のヘタの部分を丸く切り取り、そこから果肉をくりぬく。
  2.果肉と茶葉、家伝の漢方薬を混ぜ、再び酸柑に詰め、ヘタで蓋をする。
  3.詰めたものがこぼれ出ないように、たこ糸で縛って、5分ぐらい蒸す。
  4.それを更にたこ糸でしっかり縛って、軒下などに吊るす。
です。 カチンカチンで真っ黒になるまで干して、出来上がりです。

  茶葉としては本来黒茶類がよく使われますが、台湾ではこれに限らないようです。 飲むときには、少しずつ砕いて、煎じます。 茶の味の評価は、「薬っぽい」という意見や「砂糖を入れた方が飲みやすい」とさまざまですが、 茶と思って味わうかどうかだと思います。 酸柑の収穫期もあって、客家の習慣では旧正月を迎えるために作っておくのが一般的です。

  同じく客家人特有の茶に「茶甕子」があります。 これはさまざまな漢方薬と混ぜって固めた茶で、客家人はそのまま削って食べています。 筆者の教室で、煎じて試飲していただいたときは「フルーティーで飲みやすい」という評価を頂きましたが、 やはり味の評価が分かれる茶です。

  実は、酸柑茶は大湖より頭屋の方が有名とも言われています。 頭屋には蒋経国氏が命名した明徳茶という有名な茶もあります。 こちらは別の機会にご紹介したいと思います。

 楊品瑜 2005.01.28 (転載不可)


酸柑茶
ラップしたものに赤い糸が掛けてある。
ソフトボールぐらいの大きさ。








茶甕子
ウェット感があり、硬く重い。
手のひらに乗る程度の大きさ。