茶的故事 

 台湾茶

 其の五 石門鉄観音茶

 
  台湾には石門という地名が数箇所ありますが、ここで紹介する茶産地の石門は 台湾本島最北端に位置する台北縣石門郷です。 台湾沿海には長年海水に浸蝕された芸術的な石の天然オブジェがたくさんあります。 観光地としては野柳がもっとも有名ですが、石門郷は野柳に近く、 中国式の城門に似た空洞のある大きい石があることが地名の由来です。 旧名では石門洞とも呼ばれていました。 石の門の上には、「精忠照海」と書かれています。 石門郷は鄭氏王朝(中国大陸は明の時代)には天興県、清では諸羅県、のちに淡水廳に属しました。

  石門は古くから茶産地ではあったのですが、現在でも突出した銘茶産地ではなく、 どちらかというと観光地として人気です。 いろいろな小吃があることでもよく知られ、特にピーナッツ入り粽が名産品です。

  ここであえて石門鉄観音茶を紹介したいのは、昔ながらの鉄観音茶を作っているからです。 近年多くの鉄観音茶農家が緑茶や清香な発酵度の軽い茶の需要におされ、 一部青っぽい、即ち緑茶に近い鉄観音茶を作るようになっています。 鉄観音茶の専用品種であっても、発酵度の違う茶は作れるのです。

  ただ一つ言えることは、台湾諸茶農家共通していることですが、 台湾茶はもともと輸出茶として生産されていたため、低価格品でなければならず、 市場の好みに合わせて変わっていかざるを得ないということです。 このため、うまく高級茶として国内のみ、または国内外に名声を定着できた茶産地もあれば、 廃業近しに追い込まれた茶産地もあります。 石門は後者だったと言っても過言ではないと思います。

  石門の茶産業が本格的に再開したのは80年代と言われています。 石門の茶農家たちは発想の転換で、 あえて昔から伝授されてきた鉄観音茶を作って特徴を出したのです。 筆者は初めて飲んだとき感動しました。 久しぶりと言うか、懐かしい鉄観音茶を飲んだという記憶が今でも残っています。 味は濃厚で芳醇、甘みがほどよく、渋みはあまり感じませんでした。 かつて80年代の香港人が「鉄観音茶が大好き」と言っていた時代の鉄観音茶のようです。 香港はその後普洱茶が全盛となりましたが、何はともあれぜひ応援したい一品茶です。
  なお、多くの台湾茶区では青心烏龍種を採用していますが、 石門では鉄観音茶に適した硬枝紅心(別名、大広紅心)種を 民国8年に福建省安渓から取り寄せて、栽培しています。

 楊品瑜 2004.10.16 (転載不可)





石門 「精忠照海」
中央の四角い部分に文字が刻まれている。